[アニメ レビュー] この世界の片隅に

この世界の片隅に

「この世界の片隅に」は、太平洋戦争期の広島の呉を舞台とした作品である。漫画版を原作とするアニメ映画作品で、主人公のすずを中心に戦時中の庶民の姿が描かれる。今回レビューするのは2016年に公開されたバージョンで、2019年に公開された長尺版の「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」がある。

 ファンタジー風に始まる物語は、すずが呉にある北条家に嫁ぐところから動きはじめる。戦中の混乱の中で不器用なりに周囲に溶け込んでゆくすずの姿は微笑ましい。当時の風俗や暮らしを観られるのも楽しい。

 戦争が徐々に生活に影を落としてゆくなか、人々が弱者なりにしたたかに生き延びる姿に安心させられる。一方的な弱者として描かれることが多い”戦時中の庶民”が、現在の私たちと同じ感覚を持った庶民であったと感じられることが嬉しい。

 日常の生活とは全く関係ない別のところから降りかかる戦争という災害。そんな中でも人々は笑顔や愛と寄り添って生きていた。そんな庶民の姿を描いてくれたという意味で、私を含む”戦争を知らない”人みんなに観てほしい作品だ。

 人々はただ悲しんで怯えていただけではないのだ。そんな中でも日常を生きて、懸命に自分の人生を生きていた。それだけで何か勇気をもらえる気がするのは、私の思い違いであろうか。

※本記事は2022年7月30日時点での視聴をもとにした記事です。




ストーリーを起承転結に分ける

「この世界の片隅に」の長さは129分00秒(7740秒)。独断で起承転結の4つに分割している。これ以降はネタバレ注意です

<登場人物>

北條 すず(ほうじょう すず)
この作品の主人公。広島市江波で18歳まで育つ。幼なじみの水原哲と淡い恋をするが、突然に舞い込んだ縁談により、浦野家から北條家に嫁ぎ呉での生活が始まった。おっとりした性格でオッチョコチョイ。絵を描くのが上手。
北條 周作(ほうじょう しゅうさく)
どこかですずを見かけ、すずを気に入って結婚を申し込んだ。すずを思いやり、心から愛している。
水原 哲(みずはら てつ)
すずの同級生で幼なじみ。すずとはお互いに秘めたる想いを持っている。
黒村 径子(くろむら けいこ)
周作の姉。言いたいことは言う性格。何事にも時間がかかるすずにイライラしている。しかし根本には優しさや気遣いを持っている。
黒村 晴美(くろむら はるみ)
径子の娘。すずに懐いている。


この世界の片隅に

 広島で海苔を作っている浦野家の長女のすずは、お絵描きや創作話が好きな少女。ほわっとしてオッチョコチョイだが淡い恋なども体験し、それなりの年頃になった。呉の北條家から縁談をもらい嫁ぐことになったすずは、ほわっとした少女のまま周作と結婚をしたのだった。

 小姑の径子は何をやっても時間がかかるすずが気に入らない。戦争の影響もあり、すずには日常でストレスがたまることが多くなった。それでも少しづつ呉での生活に馴染んでゆくすず。周作との関係も深まり始めたのだが。

 生活の中にだんだん戦争が入り込んでくるなか、幼なじみの哲がすずに会いにやってきた。すずと哲の過去に対する嫉妬と哲の未来への同情に揺れる周作。しかしすずと周作の夫婦の絆は、着実に固く結ばれてゆく。呉での生活にも溶け込み、空襲警報にも慣れ始めたころ、晴美を連れて街を歩いていたすずは、時限式の爆弾の爆発に巻き込まれてしまう。

 径子への申し訳ない思い。周作とのすれ違い。故郷への想い。抱えきれなくなったすずは、広島へ帰ることを決意する。しかしその直前に、突然に戦争は集結する。やりきれない思いと悲しみに染まる街。だが人々は強かった。いつまでも悲しんではいられない。すずと周作も手を取り合って、未来へ向けて歩き始めるのだった。

 見どころ

  • 愛らしいすずの人間性
  • 細かい生活の描写
  • 戦争を生きる庶民の姿


背景色つき文字で書かれたシーンは、シーンリプレイ対象のシーンです。



起 (1748秒)

0-18
ロゴ 18秒

18-23
MAPPA 5秒

23-1:28
のほほん、おしゃべりなすず 65秒

1:28-2:18
賑わう街へ 50秒


2:18-3:48
OP:「悲しくてやりきれない」コトリンゴ 90秒


悲しくてやりきれない

3:48-5:33
人さらいにさらわれた 105秒

5:33-6:13
厳しいお兄ちゃん 40秒

6:13-7:18
見えてくる えっ? 65秒

7:18-8:38
座敷わらしだったのか 80秒

8:38-9:18
学校来てない水原くん 40秒

9:18-10:18
お絵かきが得意なすず 60秒

10:18-12:13
つばきの花と海の絵 115秒

12:13-13:38
すずはもうお年頃 85秒

13:38-14:48
嫁入りの作法 70秒

14:48-15:38
密かな想い 50秒

15:38-16:48
山の中の珍奇な女 70秒

16:48-18:08
軍港・呉へ 80秒

18:08-19:48
ポンコツかわいいすず 100秒

19:48-20:18
あれは義理の姉でした 30秒

20:18-22:28
お嫁に来たのです 130秒

22:28-23:48
呉の朝 80秒

23:48-25:08
新しい暮らし 80秒

25:08-26:18
忍び寄る戦争の影 70秒

26:18-27:18
径子お義姉さんと晴美ちゃん 60秒

27:18-29:08
穏やかな日常 110秒


 登場人物と物語の舞台の紹介パート。すず、北條家に嫁ぐ。

承 (1940秒)

29:08-30:38
ゆっくりすず 90秒

30:38-31:48
里帰りできました 70秒

31:48-32:58
戦時中の恋バナ 70秒

32:58-34:28
お絵かきに夢中 90秒

34:28-35:18
径子との生活に疲れたすず 50秒

35:18-36:58
孤立無援 すねるすず 100秒

36:58-38:18
やっと帰った…… 80秒

38:18-39:13
減る配給 庶民の努力 55秒

39:13-40:03
なんとか豪華にお食事を 50秒

40:03-41:28
楠公は失敗 85秒

41:28-42:53
空襲警報 戻ってきた径子 85秒

42:53-43:48
みんなで作る防空壕 55秒

43:48-44:43
物知り晴美ちゃん 55秒

44:43-46:13
つい盛り上がっちゃった 90秒

46:13-47:48
径子にも悲しい事情があった 95秒

47:48-49:18
憲兵に見つかった 90秒

49:18-50:58
バカ憲兵ワロタ 100秒

50:58-52:38
貴重な砂糖が 100秒

52:38-54:03
闇市で未来に不安を覚える 85秒

54:03-54:28
迷子になり途方に暮れるすず 25秒

54:28-56:58
遊女との出会い 150秒

56:58-57:18
いつかの座敷わらし 20秒

57:18-57:58
甘いお話でした 40秒

57:58-59:18
周作の職場へ 80秒

59:18-59:38
すずの為に嘘ついてサボる周作 20秒

59:38-1:01:08
あらあら うふふ 90秒

1:01:08-1:01:28
早合点でした 20秒


 すずが呉での生活に馴染んでゆくパート。少しづつ戦争が生活に影響し始める。

転 (1935秒)

1:01:28-1:03:23
哲とすず 115秒

1:03:23-1:04:48
嫉妬と同情の狭間 85秒

1:04:48-1:07:38
普通を手に入れていたすず 170秒

1:07:38-1:08:18
せめて好きな人には普通に生きてほしい 40秒

1:08:18-1:09:18
脳みそwww 60秒

1:09:18-1:10:28
らしくなってきた夫婦喧嘩 70秒

1:10:28-1:11:28
晴美ちゃん、よう分かっとる 60秒

1:11:28-1:12:48
目の前にある戦争の衝撃 80秒

1:12:48-1:14:18
プライドだけが支えだった 90秒

1:14:18-1:14:43
庶民はしぶとい 25秒

1:14:43-1:15:48
警報、もうあきた 65秒

1:15:48-1:18:38
引き裂かれる家族 170秒

1:18:38-1:19:28
深まる愛 50秒

1:19:28-1:21:18
庶民にも広がる危機感 110秒

1:21:18-1:22:38
みんな感じていた敗戦への不安 80秒

1:22:38-1:24:18
恐ろしい爆撃 100秒

1:24:18-1:25:28
時限式の爆弾もある 70秒

1:25:28-1:27:03
ああああああああ 95秒

1:27:03-1:28:13
たられば 堂々巡り 70秒

1:28:13-1:28:40
みんな逃げ出したい 27秒

1:28:40-1:30:18
とうとう家にまで焼夷弾が 98秒

1:30:18-1:31:13
精一杯の抵抗 55秒

1:31:13-1:32:28
みんな焼けてしまった 75秒

1:32:28-1:33:43
失われた右手の記憶 75秒


 容赦ない戦争の暴力に打ちのめされるパート。

結 (1685秒 + 450秒)

1:33:43-1:34:28
喜べない 45秒 34:50

1:34:28-1:36:25
死への感覚の麻痺 117秒 32:53

1:36:25-1:37:18
警報が日常 53秒 32:00

1:37:18-1:38:08
サギに込めたすずの想い 50秒 31:10

1:38:08-1:38:28
銃弾に引き裂かれるすずの心 20秒 30:50

1:38:28-1:39:48
本当は同じ気持ちのふたり 80秒 29:30

1:39:48-1:42:18
径子の謝罪 150秒 27:00

1:42:18-1:43:28
みんな人生を戦ってきた 70秒 25:50

1:43:28-1:44:18
きのこ雲 50秒 25:00

1:44:18-1:45:38
つかめない実態 80秒 23:40

1:45:38-1:47:48
弱い庶民の戦い方 130秒 21:30

1:47:48-1:49:48
誰のための、何のための 120秒 19:30

1:49:48-1:51:38
人生は明日も明後日も続いてゆく 110秒

1:51:38-1:52:23
絶対に帰ってくる 45秒 16:55

1:52:23-1:53:33
変わる生活 70秒 15:45

1:53:33-1:55:13
笑顔で乗り越えて 100秒 14:05

1:55:13-1:56:58
爪痕 105秒 12:20

1:56:58-1:58:18
この世界の片隅に 80秒 11:00

1:58:18-2:00:18
別れ、出会い 120秒

2:00:18-2:01:48
新しい家族 90秒 7:30


2:01:48-2:06:18
ED:「たんぽぽ」コトリンゴ 270秒


たんぽぽ

2:06:18-2:09:18
クラウドファンディング支援者 180秒


 終戦をむかえ、絶望から新たな日常へのパート。明るい未来を予感させる。

シーンリプレイ

44:43-46:13
つい盛り上がっちゃった 90秒

 戦時でもちゃんとイチャイチャしてた。妙にエロく見えるすずと周作。


49:18-50:58
バカ憲兵ワロタ 100秒

 憲兵の滑稽さをネタに笑うシーン。これが普通の感覚。


1:04:48-1:07:38
普通を手に入れていたすず 170秒

 周作も哲もすずが幸せになることを願っている。戦争が無ければ哲とすずが結婚した未来もあっただろう。


1:32:28-1:33:43
失われた右手の記憶 75秒

 爆弾で吹っ飛んでしまったすずの半生。すずの絶望は計り知れない。


1:49:48-1:51:38
生は明日も明後日も続いてゆく 110秒

 白米を全部食べないのは、まだまだ未来があるから。人の力強さを感じる。


1:58:18-2:00:18
別れ、出会い 120秒

 少々出来すぎた話だが、それもいい。悲しい話はここで終わり。


感想

 すずと周作たちが繰り広げるドラマそれ自体も面白いが、私が興味をそそられたのは当時の庶民の暮らしの描写だ。料理や食卓の様子や服、防空壕を作る作業や空襲の時の準備。人々が助け合って戦争の恐怖と戦っていたことがわかる。

 日常の生活だけでなく、その強かな処世術も魅力的だ。すずを捕まえた憲兵を笑って馬鹿にする北條の家族や、病院で堂々と敵性音楽を聴く患者たち。爆撃で海に浮かんだ魚で食卓を囲んだり、なんでも売っている闇市が大盛況だったり。とにかく、たくましく生き延びる人々に勇気づけられる。

 日常に戦争が忍び寄るなか、少しづつ夫婦らしくなってゆくすずと周作の姿も見どころだ。雨宿りで防空壕に入って、ついつい盛り上がってちゅっちゅしてしまうふたりが微笑ましい。すずの幼なじみの哲が北條家にやってきたエピソードでは、周作は悩んだ末にすずと哲を”ふたりきり”にしてしまった。それは後の大喧嘩につながるのだが、それはそれでふたりが”夫婦らしい夫婦”へとなるのに必要な事件であったと思う。

 夫婦として家族として北條家に馴染みつつあったすずに、時限爆弾による悲劇が降りかかる。すずに懐いてくれていた晴美と、大好きな絵を描いてきた自身の右手を失ってしまうのだ。哲との淡い思い出から晴美との思い出が、人生が、すべて失われたように感じたすずは虚無感に耐えきれず、呉を出て故郷の江波へ帰る決断をする。すずの気持ちを考えれば、その選択を批判はできないだろう。

 傷ついたすずにさらなる悲劇が訪れる。原爆の投下と敗戦だ。戦争に勝つことを支えに、どんなに怖くても、どんなに失っても、ぜんぶ我慢してきたのだ。それをあっさり「負けました」とは……。戦争とは庶民にとっては、本当に災害でしかない。誰のために、何のために犠牲になったのか。

 しかしこの作品では、エンディングでは明るい未来への希望も描かれている。戦争孤児の少女が、すずの右手を母親の右手と勘違いしてしがみつく。戦争の傷跡が出会いをうむシーンだ。そしてそれを北條家の家族が温かく受け入れる。晴美の服を取り出す径子の姿にホロリとさせられる。径子のなかでは晴美は、ずっと生きているのだ。

 なんど暴力に叩きのめされても、しぶとく強かに人は適応しながら生きてゆく。そんな姿が印象的な作品だった。「火垂るの墓」のような絶望する作品は人生で1回観ればもういい。これからは「この世界の片隅に」で、しぶとく生きる勇気をもらおう。そう思うのだ。