[アニメ レビュー] 機動戦士ガンダム 水星の魔女 PROLOGUE

機動戦士ガンダム 水星の魔女

 この作品は「機動戦士ガンダムシリーズ」の2022年最新作である「水星の魔女」のプロローグである。シリーズ初の学園ものとなる本編へとつながるストーリーが描かれている。

 時代としては本編より以前の話となり、本編の世界がどうやって作られたのか、ガンダムとは何なのか(水星の魔女という話の中での意味)といった、物語の背景に対する理解を助けるような回だ。

 シリーズのファンの方であれば、モビルスーツの技術レベルなどを考察したり、シリーズの他作品と比較して楽しむこともできると思われる。しかし作画やバトルアクションを観るかぎり、私のようなシリーズの理解が浅い視聴者も十分に楽しめる作品に仕上がっている。

 本編は学園ものということもあり、登場するキャラクターも可愛らしく魅力的なので、ガンダムは初めて観るという方でも気負わずに楽しんで観ることができるだろう。伝統的な名作だからといって初心者お断りという作りにはなっていない。間口を広くし時代とともに歩む努力をしているシリーズだからこそ、ずっとファンが増え続けているのだと思う。

※本記事は2022年10月16日時点での視聴をもとにした記事です。


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PROLOGUE

 PROLOGUEの長さは23分45秒(1425秒)。独断で起承転結の4つに分割している。これ以降はネタバレ注意です

 今回はちょっとした用語の解説をしておく。ガンダムが初めてという方も、あらかじめ多少の用語を知っていたほうが物語を理解しやすくなると思う。

<用語解説>

MS(モビルスーツ)
ガンダムシリーズにおける、人間が搭乗する兵器のことをさす。モビルスーツを略してMSと表記されることが多い。「水星の魔女」では、GUNDフォーマットによるMSの制御システムが組み込まれたものをGUNDAM(ガンダム)と定義しているようだ。
アーシアンとスペーシアン
地球に住んでいる、または出身者をアーシアン。宇宙へ移民した者、またはその子孫をスペーシアンと呼んでいる。水星の魔女の世界では一般的に、アーシアンがスペーシアンに見下されているようである。
フロント
小惑星上に造られた居住施設のことをさす。主人公のエリーが住んでいるフロントはフォールクヴァングという場所である。

<組織>

ヴァナディース機関
宇宙環境下における人体の補助に関する医療技術であるGUND(ガンド)を研究している組織。エリーの両親たちもこの機関で研究をしている。資金的な問題からオックス・アース・コーポレーション社に買収され、現在はGUND技術をMS用に軍事転用したGUNDフォーマットの研究を進めている。
MS開発評議会
MSを開発する企業のCEOで構成される組織。GUNDフォーマットの危険性を唱えているが、それには別の思惑もからんでいるようだ。

<登場人物>

エリクト・サマヤ
ヴァナディース機関で働く両親とともにフォールクヴァングで暮らす少女。4歳になる誕生日をむかえる。周囲の人からはエリーと愛称で呼ばれ、可愛がられていることがわかる。
エルノラ・サマヤ
エリーの母親。ガンダム・ルブリスのテストパイロット。GUND技術によって命を救われた過去を持つ。
ナディム・サマヤ
エリーの父親。ガンダム・ルブリスの開発マネージャー。
カルド・ナボ
ヴァナディース機関の代表を務めるGUND技術の権威。人類の未来にはGUND技術が必要だと考えている。怖そうに見えるが、エリーには「ばぁば」と呼ばれ慕われている。
デリング・レンブラン
軍人上がりのMS開発評議会のメンバー。大きな野望を持って評議会を牛耳ろうと画策している。劇中の話し方や振る舞いから、非常に厳格で冷徹な人物であることがわかる。


PROLOGUE

 ラボで行われているガンダム・ルブリスの稼働実験は滞っていた。パイロットのエルノラは焦りを隠せない様子。思い詰める彼女に娘のエリーが無邪気に駆け寄る。今日はエリーの誕生日なのだ。

 ルブリスの開発は現在のパワーバランスを脅かすものと考えている評議会は、なんとかしてるルブリスの開発を阻止したい。そのためヴァナディース機関を評議会から排除し、強引にGUNDフォーマットによるMSの開発阻止へ動き出したのだった。

 デリング・レンブランの画策によりMS評議会はガンダムの開発の禁止を発表すると同時にヴァナディース機関に対して襲撃を行った。混乱の中でエリーを守るため家族を守るため、ナディムはルブリスを駆って出撃するのだった。

 カルド博士をはじめ、次々と殲滅されてゆくラボの研究員たち。エリーを見つけたエルノラは、エリーにより起動したルブリスでなんとか脱出をした。エリーの無邪気な振る舞いと、強力な兵器による攻撃に恐怖を覚えるエルノラ。ナディムの決死の覚悟によって難を逃れたふたりは、これからどうなるのだろうか……。

 第0話の見どころ

  • GANDフォーマットの技術の功罪
  • エリーとルブリスの対話
  • 未熟なものが力を使うことの恐怖

背景色つき文字で書かれたシーンは、シーンリプレイ対象のシーンです。



起 (300秒)

0-8
SUNRISEロゴ 8秒

8-1:00
レイヤー33から進めない 52秒

1:00-1:45
あせるエルノラ 45秒

1:45-2:00
システムの健全性をはやく証明したい 15秒

2:00-2:40
一番大切なもの 40秒!

2:40-3:30
エリーはおねえさん 50秒

3:30-3:50
GUNDAMは登場者の生命に危険が生じる 20秒

3:50-4:00
GUND自体は医療技術 10秒

4:00-4:20
軍事転用で身体へのダメージが確認された 20秒

4:20-4:40
アーシアンとスペーシアンは緊張関係にある 20秒

4:40-5:00
エリーもお手伝いした 20秒


 登場人物とGUNDAMの紹介パート。

承 (330秒)

5:00-5:29
テストには期日がある 29秒

5:29-6:15
評議会はルブリスを開発させたくない 46秒

6:15-7:00
カルド・ナボ博士は恩人 45秒

7:00-7:20
突然の呼び出し 20秒

7:20-7:55
不穏な動き 35秒

7:55-8:15
アーシアンはスペーシアンに見下されている 20秒

8:15-8:40
妹に文句を言いに来たエリー 25秒

8:40-9:30
人が安心して宇宙で暮らすために 50秒

9:30-9:55
エリーとルブリスのコンタクト 25秒

9:55-10:30
動き出した評議会 35秒


 MS開発におけるガンダムの位置づけが分かるパート。そしてエリーはルブリスとお話する。

転 (300秒)

10:30-10:50
ラボの襲撃準備は万端 20秒

10:50-11:20
ガンダムは開発禁止に 30秒

11:20-11:50
MSの監査組織カテドラルの設立 30秒

11:50-12:25
すべてを殲滅 35秒

12:25-13:00
エリーを守るために 35秒

13:00-13:30
戦いへ向かうナディム 30秒

13:30-14:30
圧倒的な性能と体への負荷 60秒

14:30-15:30
殺人兵器と呪い 60秒


 デリング・レンブランの画策によってヴァナディース機関への襲撃が強行されるパート。劇中では「フォールクヴァング襲撃」と呼称される。

結 (380秒 + 115秒)

15:30-16:00
人が殺し合うことが戦争における作法 30秒

16:00-16:30
すべて仕組まれていた 30秒

16:30-17:00
人間は宇宙では未熟な赤子 30秒

17:00-17:20
GANDが救うはずだった未来 20秒

17:20-17:40
本当に無事でよかった 20秒

17:40-18:30
エリーは呪いを背負った 50秒

18:30-19:00
エリーに反応するルブリス 30秒

19:00-19:20
ロウソクみたいでキレイだね 20秒

19:20-20:00
ナディムの特攻 40秒

20:00-20:45
命をつないでゆくために 45秒

20:45-21:35
最後のハッピーバースデー 50秒

21:35-21:50
災いの元凶が生まれた日 15秒

21:50-23:45
エンドロール 115秒


 ナディムの決死の特攻によってエリーとエルノラが襲撃から逃れることができたパート。



シーンリプレイ

9:30-9:55
エリーとルブリスのコンタクト 25秒

 技術との対話。自身がそれを扱うに足る存在なのかを問う作業。人類にとって重要な哲学だと思う。


15:30-16:00
人が殺し合うことが戦争における作法 30秒

 まやかしのレトリックによる主張。”あるべき戦争の作法”なんてあってたまるか。


19:00-19:20
ロウソクみたいでキレイだね 20秒

 人類が手に入れようとしている大きな力。エリーの無邪気さが人類そのものの未熟さと重なる。GUNDフォーマットは人類には早すぎたのだろうか。


感想

 PROLOGUEということで物語の背景や設定を描きながら、これから先のストーリーを楽しむ助けになる要素が盛り込まれている。もちろん作画や演技も一級品なので、アニメ好きなら幅広い層が楽しめるはずだ。

 地球人が宇宙へ旅立ってからどれくらいの時間が経っているのだろうか。フロントと呼ばれる施設内では無重力でありながらも、人間が普通に生活できている。場所が研究施設なのではっきりとは分からないが、人類は宇宙のあちこちで暮らしやすい環境を構築できているようだ。

 第1話以降もたびたび観られるシーンに、スペーシアンがアーシアンを見下すシーンがある。それがスペーシアンが多数派になったことによるものならば、地球人が宇宙へ飛び出してそれなりの年月が経っていることになる。いつまでも地球に引きこもっている臆病者、みたいな感じだろうか。なんか腹立つ。

 アーシアン差別はGUNDフォーマットを開発するヴァナディース機関への風当たりにも影響しているようだ。表向きはGUNDフォーマットの危険性を唱えてはいるが、それには「アーシアン風情が」というやっかみもからんでいる。

 GUNDフォーマットは革新的な技術であると思われ、これが成功するとMS開発企業のパワーバランスが大きく変わる。だからMS開発評議会はその危険性を理由にGUNDAMの開発を止めたかった。ただそれを首謀したデリング・レンブランには別の目的がありそうだが、それは今後明らかになってゆくのだろう。

 これらを合わせて考えると、宇宙では「国家」という概念は無くなって星単位で集団が認識され、かわりに「巨大企業」が宇宙社会を支配するようになっているようだ。そうなると宇宙社会にとって重要なMS産業の代表である企業の重要人物が集まった「MS開発評議会」なる組織の位置づけが想像できる。

 GUNDAMの開発禁止に関してはMS開発評議会の思惑があるとはいえ、実際にGUNDフォーマットがはらんだ危険性は否定はできない。最後のフォールクヴァング襲撃のシーンでは、実際にその身を削って操縦するキャラクターの姿が描かれている。

 加えてエリーがルブリスで攻撃するシーンでは、おもちゃで遊ぶように無邪気にスクリーンをタッチして攻撃を実行する様子が描かれている。母親であるエルノラが恐怖の表情で惨状を見つめる姿が印象的だ。無邪気に兵器を使ってしまうことの恐ろしさと、ルブリスに認められたことでエリーが”呪い”を背負ってしまったことへの恐怖であると思われる。

 ではカルド博士が目指しているGUNDと人類の未来とは幻想なのか。それに対する答えはエリーが教えてくれている。ルブリスがエリーを認識したのは、エリーとの対話があったからである。確かにGUNDは人類には早すぎる技術であったのかもしれない。しかしGUNDと人類がお互いに対しての知識を深めることで、”祝福”された未来を目指せるのではないか。そんなことを感じさせるシーンだった。

 フォールクヴァング襲撃の最後、父親のナディムの特攻によりエリーとエルノラは襲撃から逃れることができた。それと同時にデリング・レンブランの宣言によってGUNDAMの開発は禁止されることになる。奇しくもエリーの4歳の誕生日のこの日に、MS開発の監査組織”カテドラル”は誕生したのだ。

 エリーとルブリスの邂逅はお互いにとって”呪い”なのか、それとも”祝福”だったのか。人類にとってGUNDの禁止とカテドラルの設立は”祝福”になるのか、それとも”呪い”の始まりになるのか。それはこれからのお楽しみだ。

 PROLOGUEと打って変わって本編は学園モノになる。少女が主人公ということもあり、可愛らしいシーンや面白いシーンもあって楽しい雰囲気だ。だが世界観はこのPROLOGUEの延長にあり、しっかりとした土台の上に物語が作られている。

 長々と書いてしまったが、決して敷居の高い初心者お断りな作品ではないので、多くの人に観て楽しんでもらいたいと思う。